キャンパスマスタープラン2022
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本学の各キャンパスが、現在まで安定的に存続している要因には、都市の資産であった土地がキャンパスのために提供されてきたという経緯がある。城下町名古屋から近代都市への脱皮を象徴する明治末期の博覧会用地開発(鶴舞)や、地形や緑化修景を考慮した計画理念に基づき大正から昭和初期に実施された土地区画整理組合による住宅地開発(東山)、戦災後の旧三菱重工跡地再開発(大幸)といった都市計画事業の成果である。東山キャンパスの中心軸であるグリーンベルトは、澁澤元治名古屋帝大初代総長の「緑の学園」構想に端を発し、国立大学では珍しい「モール型キャンパス※1」を実現したものである。建築家・槇文彦氏は豊田講堂の設計にあたり、このグリーンベルトを最大限尊重し、名古屋の都心部から続くこの軸線を基壇として受け止めるとともに、背後の緑地への連続性を確保する優れた造形により、大学の講堂に相応しい象徴性を実現した。こうした近代の都市遺産としての緑地や環境が形成された歴史を認識し、その骨格を保全・継承することは、キャンパスのアイデンティティの確立につながる重要な視点である。本学はもっとも新しい帝国大学であり、かつ戦時下で多くを消失した。したがって、戦後建設された豊田講堂や古川記念館をはじめとする優れた近代建築が、キャンパスにおける建築デザインの規範となる。厳格な様式やルールによって統制するのではなく、これら近代建築資産を尊重した、その時代の先端的な建築の集積による積極的な景観形成によって、新たな歴史的価値の創出を目指す。また、鶴舞キャンパス南側の旧愛知県立医学専門学校・愛知病院正門(1914建設/1930・1999復元) は、本学において戦前より残存する唯一の遺構であり、鶴舞公園に面するキャンパスの構えをつくる重要な資産として今後も尊重していく。大学のキャンパスは、地域における公共的な場であり、大学のブランディングにとって大きな意味をもつ。学生にとっては青春時代を過ごす原風景となり、教職員にとっては品格が高く誇りをもてる空間であり、来訪者や地域の人々にとっては都市における人間性回復の場であることが、大学の価値の向上につながる。したがって、キャンパス全体の骨格からランドスケープ、個々の建物やサインといった身近に目に触れるところまで、名古屋大学らしく、多様性の中にも調和のあるデザイン※2を目指す。人々の心のなかに残るキャンパスデザインが、本学のブランド力を高め、大学経営にも貢献する。※ 1 モール型キャンパス:ヴァージニア大学をはじめ、アメリカの多くの大学キャンパスで採用された、軸線に沿ってオープンスペースが展開する型式。※ 2 調和のあるデザイン:各キャンパスにおいて、個々の建築がそれぞれの特徴を持ちつつも、全体として調和をもつための漸進的なデザインの 方法は4章にて解説する。0241|キャンパスの歴史の尊重2|近代建築資産のデザイン継承3|ブランディングとしてのキャンパスデザイン2-1-6 新たな歴史的価値の創出

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